看護師の悩み、患者からのクレーム(苦情)



今まで看護師の対人関係の悩みというと、職場での人間関係や上司からのパワハラなどが代表的でしたが、近年患者さんやそのご家族との関係、特に理不尽なクレームなどで心を痛める看護師が増えてきています。

今回は、看護師を悩ませる患者さんやその家族からのクレーム(苦情)について考えて行きたいと思います。


医療現場におけるクレームの実態

看護師は元来苦情や我が侭をぶつけられやすい職業ではありますが、近年急増しているのは理不尽な悪質クレームです。クレームの実態を考える場合、まずクレームと悪質クレームをしっかりと区別する必要があります。

クレーム



通常のクレームは、要望や要求において正当性を主張するため、聞く側も自分自身を省みることができ、共感や傾聴に重きをおいた対応をすることで、問題が比較的容易に解決します。

また、対応や看護サービスに対する苦情の場合は、患者さんやその家族が「もっと良い病院、医療機関になって欲しい」という想いからあえて苦言を呈しているケースが多いため、誠実な対応をすることでお互い良い結果を得られる可能性が高い傾向にあります。

悪質クレーム

悪質なクレームは通常のクレームと異なり、要求や要望の根拠が正当でない、根拠はあるが要求内容が不当に過大、理不尽な要求をぶつけられるなど、共感や傾聴、誠実な対応などではとても対応できないものとなっています。

加えて、最近は口汚く罵る、暴力を振るうなど粗暴な行動をとる悪質クレーマーも増加傾向にあり、通常のクレーム対応では対処しきれないケースも増えてきています。


悪質クレームの被害例


ケース1 暴言・暴力

患者本人の夫が悪質クレーマーだった例。治療経過不良のがん患者の夫が深夜飲酒し、面会時間外の夜22:30に来院。

面会を断ると激昂し「お前らの看護が悪いから治らない」「ここの病院の医者や看護師は無能!」などの暴言を吐き、対応した看護師や医師に胸ぐらをつかむ、殴るなどの暴力を振るった。

ケース2 脅迫・暴力

時間外に40代男性から「父の具合が悪いので診察して欲しい」電話が入り、対応時間外であることを伝え、詳しい検査ができないことを伝えたところ「ふざけるな!すぐに診ないと殺すぞ!」と暴言を吐いて電話を切断。

15分後男性が病院へ来院し、机や備品を叩いたり殴ったりしながら「父を今すぐ診ないと殺す!」と看護師と医師を脅迫した。

ケース3 長時間に及ぶ暴言

70代女性が容体急変で死亡。死に目に会えなかった患者の息子が「病院が母を殺した!」「担当の医師と看護師を出せ!土下座するまで何度でも病院に来てやる!」「当事者の家を探し出して押しかけてやるから覚悟しろ」「多少殴ったり蹴ったりしても死ぬことはないだろう」などと長時間暴言をまくし立て、脅しを行った。

対応した50代看護師長は、その時の精神的ダメージで3ヶ月間精神が不安定となる。


これらの悪質クレームの具体例をみるだけで、通常のクレーム対応では問題が解決しないことが十分うかがえます。近年多くの看護師を悩ませているのは、通常クレームではなく悪質クレームですが、対応・対策が難しいことからなかなか解決の糸口を見つけられないという方が増えてきています。


悪質クレームが増加した背景



この数年で、悪質なクレームが急増したと感じる看護師が多いと言われますが、その背景にあるものはどういったことなのでしょうか。


悪質なクレームが増えた大きな原因の一つと考えられるのが、患者とその家族の意識の変化だと言われています。

この数年で、サービスの品質向上を前面に出す医療機関や病院増えてきましたが、それによって患者さんが過剰なサービスや看護を求める傾向が強くなりつつあります。

例えば、最近は来院者に対して「患者様」「そのご家族様」といった呼びかけをし、丁重な言葉遣いと対応で患者を出迎える病院が増えてきました。そのことが患者さんたちの特権意識を肥大化させ、権威意識の高まりや甘えを招いているという意見があります。


また、医療に対して過剰な期待を寄せたり、ごねれば自分の要望が通ると考える患者さんも増えています。「私は患者ではなく、お金を払っているお客様だ!」と勘違いして病院を訪れる方も多く、理不尽な要求や我が侭にも対応してもらって当たり前という態度で看護師に接する人も少なくないようです。

さらにクレームの質も過激になってきており、ちょっとした不愉快な出来事を「医療事故」ととらえて司法へ訴えたり、何か気に入らないことがあると物事を誇張してマスコミにリークするといったケースも出てきています。


加えて、インターネットやSNSの普及によって一方的な自己主張が可能となったことから、ネット上にいわれのない悪評を書きたてられるなど、防衛の難しい嫌がらせや妨害を受けることも増えてきています。


悪質クレームを誘発する要因とは?



悪質なクレームを発生させる誘因は、医療現場で働く医師や看護師にとって「こんなことで!?」と感じるような些細なものであることが少なくありません。

1.説明不足

治療や検査の説明において、合併症や危険性の問題について十分な説明が行われなかったと患者側が感じる。また、説明が患者の期待や予想と異なる。

2.医療者の高圧的な態度

質問や案内の際、医師や看護師が(そういったつもりがなくとも)高圧的に振る舞い、相手の感情やプライドを傷つけてしまった。特に最近は患者に対してお客様扱いの丁重な対応をする医療機関が増えたため、わずかに素っ気ない態度や言動をしただけで、ないがしろにされた!といった過剰反応をする人が増えている。

3.待ち時間や施設設備、システム

来院者が多い、医療従事者の人員不足などが原因で、患者さんの待ち時間が長くなってしまう病院や医療施設は非常に多いが、そのことに我慢がならず「自分を最優先で診ろ!」といった理不尽な要求をする人は少なくない。

また、空調や什器、来院者の呼び出しシステムなどにダメ出し、こんな施設には治療費を払う価値がないなどとごねる人も増えてきている。


これらの誘因をみると、通常のクレーム対応では十分に対処しきれないことがお分かりいただけると思います。しかしながら、自分を省みることで原因を取り除くことができるものもあり、悪質クレームを受けた際には冷静にクレームに向き合い、十分に分析・対処することが重要であることも分かります。

<悪質クレーマーの特徴>

1.自分は特別だという特権意識を持っている
2.自分より弱い立場の者を徹底的に攻撃する
3.容姿などにコンプレックスがある上プライドが高く、屈辱や羞恥を感じやすい
4.他人に対する共感が少ない


悪質クレームへの対処法


基本対策

対策の基本は「冷静かつ誠実な対応を心がける」「個人ではなく組織単位で対応する」「解決策として金銭授受を選ばない」となります。

悪質クレームの場合、聞くに堪えない暴言や暴力による脅しをされることが多いため、看護師側が萎縮してしまい、相手に主導権を握られてしまうケースが多く見られます。しかし、悪質クレームには正当性などないため、冷静に分析すると、その物言いや考えは穴だらけであることが分かります。


そういった穴をついて対応できるよう、まずは暴力や暴言を怖がらず、冷静に相手の言動や行動を分析することから始めましょう。この時、個人で対応してしまうとどうしても動揺したり焦ったりするため、必ず複数・組織単位で対応することが重要です。

また、一度でも金銭で問題を解決してしまうと、相手が味をしめて何度もクレームを繰り返す可能性があるので、お金で問題解決を図るようなことは絶対にNGです。この部分に関しては、毅然とした態度で臨みましょう。

悪質クレーマーへの具体的な対処法

1.証拠集め、立証措置に配慮する
問題がこじれた場合に速やかに法的対抗措置がとれるよう、相手の情報(どこの誰か、相手の住所・氏名・年齢・職業、所属団体)などを記録し、言動や暴力について細かくメモやレポートで控えておく。可能であればボイスレコーダーなどで録音しておくとなお良い。

2.要求の目的を明確にする
暴言や暴力に訴えた悪質クレームの場合、聞き手である看護師や医師が相手の迫力に押され、暴力に怯え相手が何を求めているのか掴めないケースが多々見られる。その結果、クレームがこじれてしまい、問題解決まで長い時間が必要となる場合も少なくない。

迅速かつ円満にクレームを閉じるためには、相手の要望・欲求を明確にし、どうすれば相手が納得・満足するかを冷静に判断することが必要。

3.脅されても過剰な反応をしない
大声で恫喝されたり、暴力で脅されても動揺せず、可能な限り毅然な態度で対応する。この時、必ず相手よりも多い人数で対応し圧倒されない状況を作ることが重要

4.違法行為には法的措置を取ることを伝える
誠実な対応を繰り返しても相手に納得されず、業務が長時間にわたって中断する場合には、法的措置をとることを相手に伝える。相手が行っている行動や言動が業務妨害や不退去罪に当たること説明し、法的措置をとることを警告することで、状況が好転するケースがある。

また、警告に従わない場合や暴力や障害、器物破損が発生した場合は、直ちに警察へ出動要請を行うことも大切です。

まとめ

この数年急増した悪質クレームに関しては、病院やクリニックなどの医療現場でも苦慮しており、対策マニュアルを策定したり、暴力やクレームが発生した際の連絡手段や役割分担を決めている、といったところも増えてきています。

しかしながら、どんなに対策を練って個人個人が努力をしても、一度悪質クレーマーに目をつけられると、問題が長期化して看護師側が消耗し、ストレスが増加するばかり、という意見もあります。

事実、長期間にわたって悪質クレーマーに対応したことにより、心身に多大なダメージを受けて離職に追いこまれる看護師も増えてきています。

もし、患者さんからのクレームによる悩みや不安が強く、身体と心に大きな負担がかかっていると実感しているのであれば、一度現在の職場を離れ、転職支援サイトなどで転職先を探してみるというのも一つの手だと言えるでしょう。

この記事のまとめ

  • 近年、患者さんやその家族からの悪質クレームが増加している
  • 悪質クレームは通常クレームと異なることを理解することが重要
  • 悪質クレーム増加の背景には、患者とその家族の意識の変化がある
  • 悪質クレーマーに対しては、誠実な対応を心がけると共に、雰囲気に飲まれないよう毅然とした態度で対することが大切


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