2008年にスタートしたのがEPA(経済連携協定)による外国人看護師の受け入れです。インドネシアとフィリピンから約170名の看護師候補者が来日したのは記憶に新しいニュースでしょう。
そのEPA看護制度の実態や問題点、EPA看護師になった彼女たちの現在についてまとめてみました。
目次
EPA看護師とは?
「EPA」って何?
アジア諸国からの外国人看護師を受け入れるニュースで、よく耳にしたのが「EPA」という名称ではないでしょうか。
EPAとは財務省が国際貿易の円滑化を促進するために行なっている取組みのひとつで、海外の国との人・物・金の移動の自由化を図るための協定のことを指します。
日本語では「経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)」といい、労働力や商品、投資を自由化して諸外国との経済関係の強化を図ろうというものです。
「EPA」って何?
日本が諸外国と締結しているEPA(経済連携協定)に基づいて、協定相手の国から受け入れた外国人看護師(候補)のことです。インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国が対象で、平成20年度から27年度までに合計994名を受け入れました。
内訳はインドネシアから547名、フィリピンから412名、ベトナムから35名となっています。ちなみに国内の労働市場への配慮から、受け入れ最大人数は1国に付き年200名と定められています。
なぜEPA看護師が必要なのか?
政府が外国人看護師の受け入れを行なった理由のひとつが「看護師不足」です。深刻な看護師不足によって、患者に対して充分な看護ができないと感じている病院やクリニックは少なくありません。
加えて現役看護師への大きな負担も重大な問題になっています。多くの看護師は医療の現場で「過労でも休めない」「休暇が取れない」「ストレスが溜まっている」といった状況に耐えて働いているのです。
厚生労働省は2025年には看護師の需要は180~200万人に達すると予測しています。原因は社会の少子高齢化で、看護を受ける患者が増えるのに対して看護師の就業者数が足りなくなるためです。
このまま超高齢化社会に突入した場合、高齢者施設や介護施設で看護師需要が急増すると考えられているのも原因のひとつになっています。
EPA看護師制度の実態や問題点について
EPA(経済連携協定)に基づいて外国で看護師免許を持つ人材を日本に迎え入れ、医療の現場での活躍を期待するというのがEPA看護師制度の主な目的です。
数々の問題を抱えているともいわれるEPA看護師制度、その実態とはどのようなものなのでしょうか。
制度の内容は?
制度の運用内容は外国人看護師の出身国によって多少の違いがありますが、インドネシアの候補者を例にとって簡単に紹介してみましょう。
・候補者の条件は自国の看護師免許を取得していること
・自国などで看護師として2年間以上の実務経験があること
・日本語の語学研修は来日前に6カ月、来日後に6カ月行なう
・日本国内の病院と雇用契約を結び、研修と就労を行なう
(看護師補助業務、看護の専門知識と技能の修得、日本語学習など)
・日本の看護師国家試験を受験する(3回まで)
・試験合格者は看護師として就労(在留期間の更新回数は無制限)
・不合格者は自国に帰国するが、短期間の来日で再受験もできる
EPA看護師の実態は?
日本の「看護師不足解消の切り札的な存在」として導入されたEPA看護師制度ですが、その実態は国の意図したところとは少し違ってきているようです。
平成20年度から26年度までに受け入れた看護師候補者の総数は839名ですが、看護師国家試験に合格したのは154名に留まっています。その割合は11%と低い確率であると言わざるを得ません。
合格率の推移も平成23年度から25年度までは9.6%~11.3%であったのに対し、26年度には7.3%と下がっており今後の結果が気になるところです。
EPA看護師の合格率の低さ解消のために、厚労省は候補者の日本語のハンディキャップ緩和の配慮を実施しています。例えば難解な用語を分かりやすく言い換えたり、難解な感じに振り仮名を付ける、疾病名に英語表記を付けるなどの工夫です。
国家試験の時間に関しても、一般の日本人受験者が5時間20分であるのに対し、EPA看護師は7時間とするといった特別措置も実施したものの合格率は向上しませんでした。
国家試験に合格したEPA看護師でも、問題なく就労できているかというと実はそうではありません。免許取得後も日本語の習熟が必要と判断される看護師も多く、文化や習慣の違いもあって現場の即戦力となっている例は少数といえるでしょう。
受入れ側の医療機関でも、EPA看護師の雇用を「国際貢献や国際交流」「職場の活性化」「テストケース」と位置付けているケースが多く見られます。
EPA看護師の問題点
1.日本語の語学力の不足
EPA看護師が最初にぶつかるのが「言葉の壁」です。医療の現場では専門職がチームを組んで診療にあたっていることから、難解な専門用語を多数理解する必要があり充分な対応ができないEPA看護師も少なくないようです。
また日本人の患者がよく口にする「頭がガンガンする」「ズキズキと痛い」などの表現がピンと来ないといった問題も発生しています
2.文化や習慣を理解しにくい
外国人看護師が日本の文化や習慣を理解していないのは当然のことかもしれません。しかし現実には、シャワーしかない国で育ったEPA看護師が「風呂の浴槽」の存在を知らないなど予想外の事態も起こっています。
国の違いによって医療や看護に関する常識や認識も異なるなど、看護の現場でも考え方の違いが浮き彫りになっているケースが見られるのも大きな問題のひとつです。
3.患者や家族が抵抗を感じる
もうひとつの問題点が、看護を受ける患者や家族からの抵抗感です。あるアンケート調査によると、外国人看護師に対し「できれば日本人に看護してほしかった」と回答した人が全体の18%を占めました。
その理由はコミュニケーションへの不安が最も多く、外国人看護師は日本人看護師の補助的な存在として雇用してほしいという意見も出ていました。
EPA看護師になった彼女たちの現在について
母国を離れてEPA看護師となった彼女たちの現在はどうなっているのでしょうか?
病院で性看護師として就労
EPA看護師候補者のほとんどは、日本国内の病院で働きながら国家試験の合格を目指します。就労先は首都圏に限らず、北海道から沖縄までの全国各地です。
働きながら国家試験に合格した看護師はそのまま同じ病院で採用され、院内の診療科で正看護師として就労しています。第104回看護師国家試験では26名が合格し、全員が総合病院、リハビリテーション病院、メディカルセンターなどに雇用されました。
候補者は看護助手として就業
看護師国家試験に合格していないEPA看護師候補者は、全国の病院で免許取得を目指して働いています。仕事内容は入浴・食事・排泄解除等を担当する看護助手やヘルパーが主です。
院内の環境整備や掃除を担当し、母国では経験しなかったトイレ掃除をつらいと感じている看護師候補者もいます。母国の家族への仕送りが必要な看護師のなかには、夜勤シフトに入って収入アップをしている人もいるそうです。
帰国する候補者も少なくない
来日して国家試験に合格しても、さまざまな理由で帰国するEPA看護師もいます。原因は日本語の勉強の難しさや文化・習慣の違いによる悩み、家族と暮らせないホームシック、地方の病院勤務で地元の言葉が分からないといったものも挙げられます。
母国に帰ると「日本で勉強してきた看護師」として高給で雇用されたり、現地の日本人がよく行く病院に採用されるケースもあって損にはならないという一面もあるようです。
- EPAとは海外諸国と日本が締結する経済連携協定のこと
- 外国とEPA協定を結ぶと労働者の自由な移動が可能になる
- 協定相手のアジアの3カ国から看護師候補者が来日している
- 日本が受入れた候補者は現在のところ994名
- うち看護師国家試験の合格者は154名に留まっている
- EPA看護師の就労先は日本全国の病院(地方もあり)
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