なぜ看護学科が増えているの?

看護学生

ここで問題です。平成26年度の看護学科への入学者数は、平成元年度の何倍でしょうか?


日本は長期にわたる不況の影響で、サラリーマンの平均年収は下がる一方ですが、手堅い年収を稼ぐ看護師の人気は上がる一方です。そして、それに伴って、看護師を志望する看護学生の数も増え続け、看護学生を受け入れる看護学科の数も増え続けてきました。

先ほどの問題の答えは、35倍です。看護学科の数も平成元年と比べて実に20倍にも増えました。これは、日本の大学の3.4校に一つが看護学科を持っている計算になります。ここ20数年で少子化が進み学生の数が減っていることも併せて考えると、これは驚くべきことです。


看護学科の推移
出典:旺文社 教育情報センター


では、なぜこれほど看護学科の数が急増しているの詳しく見ていきます。

学生側の事情:安定した収入、雇用の安定度

学生の間で看護師の人気が高い理由の一つは、やはりお給料です。「平成25年分 民間給与実態統計調査」によると平均年収は414万円です。この数字はサラリーマンだけでなく、パート・派遣社員も含んでの数字です。その一方で、看護師の平均年収は472万円前後です。しかも、先ほどの民間給与実態統計調査によると、女性だけの平均年収は272万円です(男性は511万円)。

看護師給料

看護師の9割以上が女性ですから、その女性の年収が200万も高いのです。これだけ年収に違いがあれば看護師人気が出るのも当然です。

<関連サイト>
平成25年分民間給与実態統計調査結果について


また、仕事の安定さも看護師の大きな魅力の一つです。たとえばサラリーマン(やOL)の場合、今ですと会社の業績悪化を理由にリストラされることも珍しくありません。中高年になってからリストラされた場合、再雇用先での年収が下がることが知られています。加えて、中高年は転職自体が難しいので、かつて正社員だった方が年齢を理由に派遣やパートになるケースも珍しくありません。

ですが看護師の場合、転職先で高望みをしなければ正社員(看護師でいう常勤看護師)としての勤め口がないことは、まずありません。こうした雇用の安定性は、将来が見えづらい今の日本において大きな利点です。


看護師の年収はよほど出世しない限り大きく上がるケースがあまりありませんが、大きく下がることもありません。こうした平均年収の高さと雇用の安定度が、学生から人気を集めている理由の一つと思われます。


学生側の事情2:高学歴志向

看護学科が急増している学生側の事情の2つ目は、学生の「高学歴志向」です。正看護師にしろ准看護師にしろ、看護師の専門学校を卒業してなることはできますし、何より大学に較べて専門学校の方が授業料が安いです。

私立大学の場合、年間で150万以上かかるケースも珍しくありません。一方で専門学校なら、学費自体が安いことに加えて奨学金も活用しやすいため、看護師になるまでに掛かる費用を大幅に抑えることができます。



これだけ専門学校にメリットがあるのに、それでも学生が大学を志望するのは、それだけ大学卒で看護師になりたいと考える学生が多いためです。特に、聖路加国際大学・東京大学・京都大学は人気も高く、系列病院も看護学生の間では人気の就職先です。


大卒の看護師になるメリットはそれだけではありません。実は大卒で看護師になった場合、海外で働くためのハードルが下がります。国によって違いますが、専門学校卒の看護師の場合、現地で看護師として働くためには現地の大学に2年ほど通う必要があります。一方で大卒看護師の場合、この2年間の大学通学が免除されており、現地の病院で3~4か月ほど実地研修を受ければ看護師として働くことができます。

<関連記事>
国際緊急援助隊で看護師として働く!


ちなみに、2014年現在ではアメリカやイギリスは移民制限のため門戸を閉ざされてしまいました。ですが、国によっては日本同様に看護師不足のため、外国人の受け入れに寛容な国もあります(オーストラリアやニュージーランドなど)。


大学側の事情:学生が手堅く集まる

看護学科が急増している大学側の事情は、学生を手堅く集めることができるためです。


実は、日本では文部科学省の方針によって大学が増えすぎてしまいました。元は大学・短大の進学率を向上させるための施策だったのですが、そうでなくても少子化の影響で学生が少なってきたところに大学の新設ラッシュです。おかげで、一部の一流大学を除いて中堅以下の大学は学生が定員に達せず、大学経営が非常に苦しいものになりました。

<関連サイト>
増えすぎ!? 日本の大学でいま何が? – NHKオンライン


そこにきて、この「看護バブル」です。大学の定員割れが珍しくない時代になりましたが、看護学科を新設するだけ定員の5倍近くの募集があります。こうした流れに多くの大学経営者が飛びつき、結果として看護学科が新設される大学が一気に増えることになりました。


看護師の将来はどうなる?

それでは、看護学科と看護学生が増えていき、将来は一体どうなるのでしょうか?将来のことは誰にも分かりませんが、懸念されているのは、この動きがかつての法科大学院の急増とよく似ている点です。

法科大学院は日本で弁護士を増やすための施策として、文部科学省の肝いりでスタートしました。確かに弁護士の数自体は増えましたが、弁護士に対する社会の需要はそれほど増えず、仕事に就けない弁護士が増え、弁護士の給料も減少し始めました。結局、文部科学省は増えすぎた法科大学院を減らして弁護士の数を抑え始めています。

もちろん、弁護士と看護師は仕事の性質が異なります。今後の高齢化社会も考えると、看護師の数が余るということは考えづらいでしょう。ただし、診療報酬改定を通じて、病院看護師の数が今後減っていく可能性はあります。また、看護師の待遇(給与や福利厚生)が今の水準を維持できるかも未知数です。

<関連記事>
平成26年度診療報酬改定で受ける病院経営への影響度


現在の看護学科の急増が、看護業界にどういった影響を与えるのか5~10年ほど経ってみないと分かりません。ただし、業界ではその動向に注目しているところです。



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